
多重債務のこんな要素
信託銀行はこの「トラスト」の歴史と言葉の意味をいまほど重く感じている時はないのではないか。
高齢化が「言託」に希望をもたらす信託銀行がいまもっとも注目しているのはわが国の人口の高齢化である。
これについては先にも触れたが、高齢化社会を信託の目でみると次のように映る。
第一は、まず、高齢者に資産家が多い、ということである。
しかも、その資産がまだまだ増えるということだ。
ちょっと古いが、総理府の調査によれば。
60歳代の高齢者世帯の平均貯蓄は84年の887万円から94年の1941万円と倍以上に増え、全世帯平均の1300万円を上回っている。
持家比率も80%を越える。
また、東京都のアンケート調査によれば。
96年秋の45歳以上の世帯の平均貯蓄は2428万円になり、それでも「不十分」と思っている人が56%にもなるという。
中高年齢層はすでにかなりの財産をもっているが、老後に不安を持ってもっと貯めたい、増やしたい、と考えているのだ。
第二は、高齢者には資産管理の相談相手が必要になるということである。
高齢者は高齢のために情報の吸収能力や判断能力の減退、病気などによる行動力の衰えなどにより、財産の管理能力が著しく欠けている。
財産などの管理について悩んでいる老齢者が多い。
特に、夫を亡くした高齢の富裕層未亡人の悩みは深刻になっている。
彼女達は信頼に足る資産の管理者を切実に求めている。
言うまでもなく、信託は委託者が受託者(信託銀行)に財産権の名義、所有権を移転する財産管理制度で、法律は受託者に非常に厳しい義務を課し、受益者へ利益を図っている。
委託者の意志を忠実に尊重しつつ、受益者の利益を保障するというのが信託のシステムであり、高齢者の財産管理の方法として非常に優れている、といえる。
第三は、別な意味から現代は第三者の財産管理者が必要になっているということである。
少子化が進んでおり、一方で子供の親離れが著しい。
親の面倒をみる子供が少なくなり、信頼のおける親戚づきあいは希薄化している。
高齢者は自分の財産を安心して管理してくれる縁者がいない。
まったく関係ない第三者のコンサルタントが求められる時代になっている。
一方で、高齢者の資産の増大がすすみ、一方では大量の資産の世代聞の移転が行われているということだ。
少子化により遺産分配の重要性も増している。
遺産が少なければ相続の争いも起きない。
多いからトラブルが起きる。
信託なら委託者の意志が生かせる。
委託者が死んだ後でも自分の意志を存続できるのは信託の特性の1つである。
もちろん、在命中でも病気やボケなどで自分の意志が表示できなくなる前に、信託で財産管理を委託することもできる。
遺言が書けなくなってからでは遅すぎる。
遺言信託が脚光を浴びるゆえんである。
住友信託銀行は「財務コンサルタント」の制度を設けて久しい。
それなりに成果をあげてきたが、パブソレの時代には“悪のり”してしまった。
いま、その反省の上に立って本来の役割である「コンサルタント業務」を改めて強化している。
1996年8月には全国の主要店を改装して「財務コンサルタントコーナー」を設けるとともに、不動産に強い「不動産コンサルタント」を配し、富裕層を対象に総合的な「財務のコンサルタント」サービスをアピールしている。
これまで人材不足から財務コンサルタントはなかなか全届配置できなかったが、このほど可能となった。
大都市の主要店には2名の財務コンサルタントと1名の不動産コンサルタントを配置し、万全の体制となっている。
コンサルタント室に入ると、受付の女性がアポイントの有無を尋ね、すぐに担当者の部屋に案内してくれる。
受付の女性は、銀行OLの卒業生()らしく、愛想よくテキパキとしている。
部屋には赤い(必ずしもどこも赤くはないが)じゅうたんが敷かれ、店頭の騒々しさとはかけ離れ、「VP待遇か」と思わせる心憎い配慮だ。
「アポイントなしでも相談できますか」と尋ねたところ「コンサルタントが空いていればすぐにでも御案内します」ということだった。
日本の銀行で金持ちの来店客を増やす秘訣は、店頭に“愛想のよい美人”を置くことだ、とライバルの信託銀行では言っていた。
コンサルタント室には、欧米のマーチャントバンクの、あるいは商業銀行の店頭マネージャー室程度の6畳ほどのドア、間仕切りの個室が並んでいる。
机は銀行の店頭や営業マンの安っぽいスチールデスクと違って、木製風の大きなものである。
座る椅子も布張りの品の良いものだった。
これでもうちょっと照明を落として調度品を工夫すれば、イギリスのプライベートバンクの個室だ。
すぐに女性がお茶を出してくれる。
いまどき銀行の店頭ではお茶を出してくれない。
年寄りはこれだけで感動するだろう。
机の奥に座っている「財務コンサルタント」は50歳前後の上品な紳士であるもし、御用件が不動産関係の御相談でしたら、隣に不動産コンサルタントがおりますのでお呼びしますが」とにこやかに言う。
住友信託銀行では、97年の夏に給与制度を大幅に改めた。
定期昇給を廃止し、給与は査定のみという能力主義に徹底したきびしいものになった。
これは“ビッグバン”で欧米の金融機関との激しい競争を勝ち抜くためと説明している。
財務コンサルタントの待遇は55歳までは一般の行員と同じである。
55歳になると、役員以外すべての行員は給料がダウンするが、彼らは60歳まで(人によっては62〜63歳まで)財務コンサルタントとして働き、それなりの報酬を得られる。
銀行界では普通50歳になると役員や特別な職務の者以外は外部に出される運命にある。
運が良ければ、関連会社で“第二の人生”を送れるが、最近ではポストが空かず、あまり“関係ない”会社に出されて'慣れない仕事で苦労している人が多い。
財務コンサルタントには40歳以上からなれる。
当初は希望者の中から選んでいたが、応募者が多くて、最近では早い段階から優秀で、この業務に相応しい人材を選んでいる。
いま、住友信託銀行では「資産のホームドクター」を標梼して不動産、相続・贈与、遺言信託、資産運用など、なんでも相談にのれる体制を構築しようとしている。
まさに、プライベートバンキングの世界だ。
一方、個人の富裕層対象の商品の品揃えも着々とすすんでいる。
その1つが信託型商品ファンドである。
すでに販売残高は500億を超えた。
超低金利が続いているので、富裕層の関心が外貨預金や外貨建債券、商品ファンドのようなリスクはあるが、高金利な商品に集まっている。
外貨預金では、住友信託では一部の店で「ファーストクラス」と名付けた一部へッジした短期の定期預金を富裕層の新規資金目当てに売り込んでいる。
新商品の開発・販売ではシティバンクとも提携することになった。
ビッグバンを控えて「品揃え」は信託銀行にとっても急務である。
東洋信託銀行が設立されたのは、昭和34年11月である。
設立当初から「投資顧問部」を設け、投資顧問業務に力を入れてきた。
これは現在も続いて、同行のプライベートバンキンクの一翼を担っている。
当時、新設の信託銀行でいきなり投資顧問業務を展開できたのは、設立の発起人であり大株主の一人であるN証券が基盤と人材を提供したからである。
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